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パニック障害

 広場恐怖は約3/4の患者にみられる.筆者らの調査では,広場恐怖を伴うパニック症では伴わない群に比較して,処方薬剤量が多く,病期が長く,状況性パニック発作症状数が多く,発症時のシーハン不安尺度総得点が高く,初診時の抑うつ尺度が統計的有意に高かった.発症年齢,不安・抑うつ障害および薬物中毒の家族歴,早期離別歴,学歴,結婚歴には有意差はなかった.

 パニック発作が軽快してくると,約4割の患者では不安・抑うつ発作がみられる.これは,理由なくまず流涙し,その前後から,不安・焦燥感,悲哀感,自己嫌悪感,絶望感,孤独感,無力感,抑うつ感などの陰性情動が一気に襲いかかり,それに引き続き過去のいやな思い出の場面がフラッシュバックする.この不安・抑うつ発作を呈する症例は程度の差はあるが,大部分がパニック性不安うつ病に移行する.

病因

 パニック症患者の遺伝学的一親等におけるパニック症の発症率は約10%,不安障害全般,感情障害,中毒も含めるとそれらの発症率は約20%である.パニック症の4つの双生児研究における一致率は,一卵性では34%,二卵性では8%であった.また,パニック症の遺伝率は43%と報告されている.

疫学

 わが国において2000年(平成12年)に施行した全国の男女それぞれ2,000人についての健康調査で,DSM-Ⅳのパニック症の診断基準を満たしている,またはそのような経験のあった者は,全体で3.4%,男性1.8%,女性5.4%であった.その調査における広場恐怖,乗り物恐怖,閉所恐怖症は全体で21.0%であった.

経過・予後

 筆者は中等度以上のパニック症の模範的治療病期を大きく3つに分けている.治療開始3か月でパニック発作をはじめとする病的な症状が大幅に消失し,患者は日常生活で大きな障害を感じなくなる.1年目には,広場恐怖もほとんど消失し,病的状態はなく,寛解状態に達している.3年すると,ほぼ通常の状態になる.すなわち,小さな不安もなく,感情の過敏性も消失し,以前の性格にほぼ戻っている.このような経過は,明らかなうつ病を併発しない場合である.筆者らの追跡研究では,初発パニック発作の症状数が多いほど重症でうつ病が併発しやすく,予後が不良である.パニック性不安うつ病の多くは非定型うつ病像を示し,社会機能の高度な障害が数年続くこともまれではない.

 米国の5年後の予後研究では,症状の重症度と頻度に男女差はなく,広場恐怖は女性に多かった.寛解率は女性38%,男性41%,寛解後6か月以内の再発率は,女性39%,男性15%であった.5年後の再発率は女性82%.男性51%であり,再発後の症状の持続は女性のほうが男性より圧倒的に長かった.パニック症は不安障害のなかでは寛解率も再発率も最も高い病気である.

診断のポイント

 予期不安が激しく,そのために,強く苦悩するか,社会的障害が出現している.発症はストレスやカフェインやアルコール類の大量摂取に引き続きみられることもあるが,必ずしもそうではなく,誘因を認めることなく突発する症例も少なくない.パニック症患者の訴える身体症状は通常の医学的表現から逸脱することが時にある.例えば,“心臓が口から飛び出しそう”と心悸亢進を表現したり,“頭の中から血の気が抜ける”などといってめまいを訴える.鑑別診断は,甲状腺機能亢進症,てんかん,褐色細胞腫,喘息,狭心症,低血糖発作,覚醒剤中毒,アルコール禁断状態,クッシング症候群などである.

治療方針

 パニック症の急性期治療はまずパニック発作(不全発作も含めて)を消失させることが最も重要である.パニック発作自体が次の発作誘発の準備性を脳内で高めるので,この悪循環を一刻も早く断ち切るために即効性の薬物を使用する.

心理・社会的療法

 パニック症に対する認知行動療法は,薬物療法と同等か同等以上の有効性があると報告されている.また,薬物療法との併用が最も有効率がよいとする報告もある.パニック発作には自分自身の身体症状に直面させる内的エクスポージャーやパニック発作や身体症状に対する破局的認知を修正する認知療法が効果をもつとされ,それに伴い予期不安の低減にも有効である.広場恐怖に対しては不安場面へのエクスポージャーと認知再構成法が有効である.もちろん,パニック発作に対しても,広場恐怖に対しても,患者・家族心理教育と呼吸法やリラクセーションがこれら認知行動療法の前提になる.パニック性不安うつ病に対しては,パニック発作や広場恐怖ほど一般に用いられている認知行動療法の有効性は文献的には高くない.筆者らは,パニック性不安うつ病に特化した認知行動療法として,ストレス対処,感情コントロール,自己主張,不安・抑うつ発作への対処,自己の客観視のサブセッションを考案し,実施している.中等度以上のパニック症は,生活習慣病といえるほど生活の規則が乱れる病である.身体を使わせることが非常に重要である.

参考文献

1) 貝谷久宣:第3章パニック障害.塩入俊樹,松永寿人(編):不安障害診療のすべて.pp121-164,医学書院,2013

2) 貝谷久宣:非定型うつ病-不安障害との併発をめぐって.精神医学52:840-852,2010

3) 貝谷久宣,正木美奈,小松智賀,他:パニック症は軽症化しているか.特集 臨床現場から見た精神疾患の変貌 臨床精神医学45:57-62,2010

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