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社交不安症

 社交不安症(SAD)は,他人の注視を浴びるかもしれない状況に対して顕著で持続的な恐怖感を抱き,自分が恥をかいたり,恥ずかしい思いをしたり,拒絶されたり,他人に迷惑をかけたりして否定的に評価されることや不安症状を呈することを恐れる病態である.このため,社会的状況を回避することが多くなり,日常生活に困難をきたす.

 神経伝達物質としてはセロトニンとドパミンの関与が指摘されている.扁桃体,前部帯状回皮質,島皮質においてセロトニン5-HT1A受容体結合能が低下しているとの報告や,線条体においては,ドパミンD2受容体とドパミントランスポーター結合能が減少しているという報告などがある.そのほか,GABA,グルタミン酸の関与についても検討されてきている.機能画像研究では,表情課題,スピーチ課題などで扁桃体の過活動が多く報告されており,感情を刺激する表情課題での扁桃体の活動性の高まりは,SAD症状の重症度と関連することも報告されている.また,SAD患者の第一度親族がSADである割合は2-6倍高くなることなどから,遺伝的要因についても指摘されている.

診断

 SAD患者の不安感や恐怖感の出現あるいは回避の対象となる状況としては,人前での会話や書字,公共の場所での飲食,あまりよく知らない人との面談などが挙げられる.例えば,話をしているときに声が震えたり顔が引きつったりしていると,ほかの人に気づかれて恥ずかしい思いをするのではないかと考えて非常に不安になる.また,手が震えていることに気づかれるのではないかと心配になり,ほかの人がいるところでものを食べたり,何かを書いたりすることを避けることもある.試験など他の人から評価される状況も苦手である.これらの状況では,ほとんどいつも不安症状を体験している.不安に伴う生理的反応が現れやすく,紅潮,動悸,振戦,声の震え,発汗,胃腸の不快感,下痢などがみられやすい.

治療方針

 SADでは,対人場面での不安感が強いために医療機関を受診すること自体,多くの努力を要する。薬物療法は,選択的セロトニン再取り込み阻害薬selective serotonin reuptake inhibitor(SSRI)を主剤として行うことが妥当と考えられる.薬物療法を手助けにし,頭の中の悪循環の回路が回りだすことがなくなり,よい循環の回路がうまく形成されてくるとだんだん薬物は必要なくなる.日常生活のなかで,できそうなことから始めていく.可能であれば,徐々に安全保障行動(不安感が起こらないように自然にとってしまう回避行動)をとらないで行動してもらい,その前後での周囲の人の様子を確認してもらう.うまくいったり,いかなかったりしながら,一緒にうまくいく方法を考えて,全体として徐々に改善していく.

 SADに対する精神療法としては,わが国の対人恐怖に対する精神療法として検討されてきた森田療法は有効と考えられるが,欧米では,認知行動療法の有効性が多く検討されている.

参考文献
今日の精神疾患治療指針 第2版 発行:2016年10月/医学書院
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