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うつ病

病態・病因

 第一度親族(親,同胞,子ども)におけるうつ病の罹患率は一般人口の1.5-3倍であることから,遺伝性が指摘される.2004年に神経症的特質(否定的感情)が危険要因の病前性格として確立され,ストレスの多い人生上の出来事が加わってうつ病が発症することが明らかになった.

 抗うつ薬の作用機序から考えると,脳内のセロトニン,ノルアドレナリン神経伝達の低下がうつ病で推定されるが,直接的な証明はなされていない.しかし,いずれにしても脳内でセロトニンあるいはノルアドレナリンの細胞外濃度を増加させることが抗うつ作用につながると考えられる(最近はこれらの神経伝達物質がさらに海馬の神経新生を刺激することが抗うつ作用の作用機序であるという仮説も有力である).さらにドパミン神経伝達の刺激も抗うつ作用に関連していることが最近注目されている.

わが国における川上憲人らの疫学調査(2006)ではうつ病の生涯有病率は6.16%(男性3.84%,女性8.44%),12か月有病率は2.13%(男性1.17%,女性3.08%)であり,女性に多い.

経過・予後

 初回エピソードのうつ病患者の約60%は2回目のエピソードをもつ.2回目,3回目のエピソードをもった患者が,それぞれ3回目,4回目のエピソードをもつ可能性は70%,90%である.初回エピソードのうつ病患者の5-10%は双極Ⅰ型障害に診断が移行する.

治療方針の概要

 薬物治療のほかに,精神療法・家族への配慮,状況因への介入,作業療法,運動を治療に取り入れていく.精神的休息をとることは重要であるが,身体的休息についてはあまり強調しすぎない(適度な運動は必要である).

薬物療法

 第一選択の抗うつ薬は性,年齢,合併する身体・精神疾患,併用薬,副作用を考慮して選択する.基本的にはSSRI(エスシタロプラム等)かSNRI(ベンラファキシン等),NaSSA(ミルタザピン)を単剤で少量から開始し,副作用と効果をみながら増量していく.治療初期は1週間に1-2回の頻度で通院してもらう。効果が不十分で,副作用の問題がなければ,添付文書で認められた最大用量まで増量して,4週間以上の治療後に効果判定を行う.ただし,症状が悪化した場合,あるいは副作用が強く出現した場合は,すみやかに中止し,第二選択の抗うつ薬に変更する.効果不十分であれば,作用機序の異なる第二,第三選択の抗うつ薬に次々に変更していく.

完全寛解後の維持療法

 生物学的精神医学会世界連合(WFSBP)の治療ガイドライン「単極性うつ病性障害の生物学的治療ガイドライン」では,「完全寛解後6-9ヶ月の継続治療を行うこと,過去のうつ病エピソードの期間と同じ期間は治療を続けること」を勧めている.さらに,再発因子〔複数回のエピソード,気分変調症の存在,併存精神疾患,慢性身体疾患の合併,過去のエピソードが1年以内,寛解時の残遺症状(特に不眠症状),重症エピソード,薬剤中止後の再発歴,物質乱用,第一度親族にうつ病の家族歴,30歳以前の発症,を挙げている〕があるときは維持療法を考慮する.「反復性で,前回のエピソードが過去5年以内に起こっていたり,寛解に至りにくかった場合は3年間の維持療法を行い,さらに抗うつ薬中止後1年以内の再発が2,3回ある場合には5年以上の維持療法を推奨する」「特に抗うつ薬中止後6ヶ月間は再発のリスクが高い」と具体的な提言を行っている.

心理・家族・社会的療法

 笠原嘉の小精神療法に準じて,支持的かつ心理教育的な精神療法を併用する.認知療法が症状軽減に有効な症例もある.時に応じて家族・職場の人と面接して,病状の説明・回復の段階・今後の治療法・回復の可能性について患者に対するのと同様に支持的かつ心理教育的に対応する.うつ症状に躁・軽躁成分が混合していないか(すなわち混合性うつ病:ICD-10,DSM-5の躁・軽躁エピソードを満たさない閾値下の軽躁症状がうつ病に混在する)については,常に周囲の人に確認していくべきである(患者本人は自覚しないことが多いので).近年は不眠症状に注目し,不眠に対する認知行動療法がうつ病に伴う残遺不眠に対する治療として試みられており,そのうつ症状の再発予防効果が期待されている.積極的な運動・作業療法・復職支援プログラムを導入する必要もあるが,絶望感・焦燥感・自殺念慮がなくなって抑制主体となった段階で行う.

参考文献

1) Bauer M, Whybrow PC, Angst J, et al: World Federation of Societies Biological Psychiatry Task Force on Treatment Guidelines for Unipolar Depressive Disorders: World Federation of Societies of Biological Psychiatry (WFSBP) Guidelines for Biological Treatment of Unipolar Depressive Disorders, Part 1: Acute and continuation treatment of major depressive disorder. World J Biol Psychiatry 3: 5-43, 2002: Part 2: Maintenance treatment of major depressive disorder and treatment of chronic depressive disorders and subthreshold depressions. World J Biol Psychiatry 3: 69-86, 2002〔山田和男(訳):単極性うつ病性障害の生物学的治療ガイドライン.星和書店,2003〕

2) Lam RW, Kennedy SH, Grigoriadis S, et al. Canadian Network for Mood and Anxiety Treatments (CANMAT) Clinical guidelines for the management of major depressive disorder in adults. III. Pharmacotherapy. J Affect Disord 117: S26-S43, 2009

3)今日の精神疾患治療指針 第2版 発行:2016年10月/医学書院

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