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適応障害

 

 適応障害とは,明らかなストレス要因に対する不適応反応として抑うつや不安などの情動の障害と行動の障害のいずれかもしくは両方を呈し,生活機能に著しい障害をきたす精神障害である.ストレス要因の種類は特定されていないが,誰にとっても強いストレスとなるような破局的な出来事(災害や交通事故,犯罪被害など)よりは,比較的頻度が多く日常的なこと(身体疾患への罹患や職場ストレス,経済的問題,家庭内不和など)が多い.また,不適応反応を呈するかどうかは,個人の素質すなわちストレス脆弱性に大きな影響を受けている.

 DSM-5では,症状はストレス因の始まりから3か月以内に出現するとされ,ストレス因またはその結果が終結してから6か月以上持続することはないとされている.また,ストレス因に不釣り合いな程度や強度をもつ著しい苦痛,もしくは社会的,職業的,または他の重要な領域における機能の重大な障害を認めるときに診断されるが,他の精神疾患(うつ病や不安症など)の基準を満たしていないことが条件である。

症状

 症状は情動の障害と行動の障害に大別され,前者では抑うつ気分や涙もろさ,絶望感,焦燥感,神経質,過敏などがあり,後者では怠学や無断欠勤,破壊行為,自傷行為,無謀な運転,けんか,社会的ルールの無視などがある.ほかには,さまざまな身体症状(頭痛,肩こり,動悸,食欲不振,下痢,倦怠感など)がしばしば認められ,社会的ひきこもり,不定愁訴,身体疾患の否認,治療への抵抗などが問題となることもある.

診断の概要

 臨床上,最も鑑別が問題となることが多いのはうつ病であろう.うつ病との違いについて,ストレス因の有無ではなく,抑うつ症状がうつ病と診断できるだけの重症度かどうかという点が最も重要となる.内因性のうつ病を示唆する中核症状と考えられる精神運動抑制や食欲不振,中途・早朝覚醒,日内変動などがひとまとまりとして存在しているかどうかがポイントとなるだろう.また,ストレス脆弱性の背景に,神経発達障害(自閉スペクトラム症など)やパーソナリティ障害が存在している可能性も検討すべきである.ストレス因はこれらの障害の症状を悪化させることがある.そのためには生育歴や病前の適応状況の確認,元来のパーソナリティの評価は欠かせない.知的レベルを測定したり,性格特性を評価するために心理検査が有用であり,病状が許すなら施行を検討すべきである.

治療方針

 丁寧な問診がそのまま重要な初期治療となる.適応障害は自殺企図・既遂との関連があり,慢性化したり,うつ病や不安症に移行したりすることもあるため,注意を払う必要がある.

 この障害の本態は,ストレス要因に対する不適応反応であるため,治療の中心は精神療法や環境調整であり,薬物療法は補助的なものである.介入の焦点は,①ストレス要因の除去・緩和,②ストレス脆弱性の軽減,適応力の向上,③結果として生じた不適応反応への対処法の獲得,④薬物療法による症状自体の緩和,ということになる.

 まず,ストレス要因が除去・緩和可能なものであるかどうかを検討する.その際,患者だけでなく,関与する周囲の人と連携・協議する必要がある場合もある.ストレス要因の除去・緩和ができれば,それだけで症状は改善し,それ以上の治療が不要になることさえある.医師による精神療法だけでなく,看護師や精神保健福祉士,臨床心理士などの多職種チームによる支援が有用な場合もある.

薬物療法

 薬物療法はあくまでも補助的なものであるが,不安や不眠が悪循環を形成している場合には,精神療法のみでの対処では不十分な場合もあり,積極的に薬剤を使用することで精神療法も行いやすくなる.症状が改善したら,薬剤の減量・中止を検討し,漫然と不必要な処方を継続しないように注意すべきである.このため,薬剤はできるだけ依存性のないものを選択すべきであり,抗うつ薬や抗不安薬や睡眠薬を使用することが多い.

参考文献

1) 原田誠一(編):適応障害.日本評論社,2011

2) 原田誠一:適応障害の初期面接.臨床精神医学43:475-479,2014

3) 平島奈津子:適応障害.精神科治療学26(増刊号):129-133,2011

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