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心身症

 心身症とは,“身体疾患の中で,その発症や経過に心理・社会的な因子が密接に関与し,器質的ないし機能的障害が認められる病態をいう.ただし,神経症やうつ病など,他の精神障害に伴う身体症状は除外する”〔日本心身医学会教育研修委員会(編),1991〕と定義されている.このように心身症とは独立した疾患単位を指す言葉ではなく,身体疾患のなかで心身相関が認められる病態をいう.代表的な心身症としては,片頭痛,緊張型頭痛,虚血性心疾患,高血圧,気管支喘息,アトピー性皮膚炎,じん麻疹,過敏性腸症候群などが挙げられる.一般に思春期,青年期には機能的障害の頻度が高く,成人期,初老期,老年期になるにつれて,器質的障害の頻度が増加する傾向がある.一方,小児では大人の場合と異なり,心身が未分化で,全身的な反応を示す場合が多いといわれている.さらに心身症は,現実的なストレス環境に由来するタイプとストレスの受け止め方や対処の仕方など,本人の性格傾向に問題が認められるタイプに大別される.心身症に比較的よくみられる性格傾向としてアレキシサイミア(alexithymia:失感情表出症)や過剰適応が挙げられる.

ストレスとは

 精神的葛藤や行動様式が体の状態に影響を与えて病気を作り,逆に体の状態が心の働きに影響を及ぼすことを心身相関とよぶ.このような心身相関の考え方が生まれた背景にはCannonの緊急反応emergency reactionやSelyeの汎適応症候群general adaptation syndromeなどの自律神経系や内分泌系の変化をもとにしたストレス学説がある.

 Cannonは,1914年に初めて“ストレスstress”という言葉を用いて,物理学における“歪みstrain”を生理学の領域に導入した.またBernardが唱えた,体の外部環境が変化しても内部環境の固定性が保たれるという概念を発展させ,“ホメオスタシスhomeostasis”として体系化した.さらに犬に襲われた猫の心拍亢進,血圧上昇,血糖値上昇などの急性のストレス反応を交感神経の亢進によるメカニズム(“闘争か,逃避かfight or flight”)で説明した.一方,Selyeは,Cannonの考え方をさらに発展させ,“ストレス”を“さまざまな外的刺激(ストレッサー)によって生じる生体内の歪み(ストレス反応)”という身体の臓器反応としてとらえ,いわゆる“ストレス学説”を提唱した.特に,ストレッサーの種類に関係なく,それが長く続くと,副腎の腫大,胸腺の萎縮,出血性胃潰瘍という三徴候を引き起こし,“警告反応期-抵抗期-疲弊期”という共通の生体内変化を見いだした.

過敏性腸症候群

 代表的心身症である過敏性腸症候群の有病率は一般人口の10-15%,1年間の罹患率は1-2%と概算されている.

診断の概要

 一般に,多くの心身症を呈する患者は,一見,何の心理的問題もなさそうな,むしろ社会的には何の問題も起こさないように頑張っている(過剰適応的)人々に少なくない.

 DSM-5では,診断基準として以下のA,B,Cが挙げられている.

A.身体症状または医学的疾患が(精神疾患以外に)存在している.

B.心理的または行動的要因が以下のうちの1つの様式で,医学的疾患に好ましくない影響を与えている.

 (1) その要因が,医学的疾患の経過に影響を与えており,その心理的要因と,医学的疾患の進行,悪化,または回復の遅延との間に密接な時間的関連が示されている.

 (2) その要因が,医学的疾患の治療を妨げている(例:アドヒアランス不良).

 (3) その要因が,その人の健康へのさらなる危険要因として十分に明らかである.

 (4) その要因が,基礎的な病態生理に影響を及ぼし,症状を誘発または悪化させている,または医学的関心を余儀なくさせている.

C.基準Bにおける心理的および行動的要因は,他の精神疾患(例:パニック症,うつ病,心的外傷後ストレス障害)ではうまく説明できない.

治療方針

 心身症の治療では,各疾患とその治療経過によって薬物療法が中心になる段階から,カウンセリング,行動療法といった種々の心理的アプローチが中心となる段階まで,それぞれの病態・症状・時期に応じて異なった組み合わせが考えられる.

参考文献

1) 小牧 元,久保千春,福土 審(編):心身症-診断・治療ガイドライン2006.協和企画,2006

2) 久保千春(編):心身医学標準テキスト.第3版,医学書院,2009

3) 河野友信,吾郷晋浩,石川俊男,他(編):ストレス診療ハンドブック.第2版,メディカル・サイエンス・インターナショナル,2003

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