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不眠障害

 不眠障害の診断基準は,①入眠困難,睡眠維持困難,早朝覚醒のいずれか1つがあり,②日中の機能障害を呈し,③週に3夜以上みられ,④3か月以上持続するというものである.不眠障害による日中の機能障害には,疲労感,注意集中困難,作業効率低下,気分不快,眠気,多動,気力低下,間違いの増加,夜間睡眠へのこだわりなどがある.QOLが低下し,生活習慣病が悪化し,長期欠勤やうつ病の発症が懸念される.精神生理性不眠症は不眠障害の中核群であり,偶発的な不眠をきっかけに不眠に対する不安・恐怖感が生じて,夜になると眠ろうと努力してかえって目がさえてしまう.夜間だけでなく日中も過覚醒状態にあり,昼寝をしようと思っても寝つけないことがある.元来几帳面で神経質な性格の人に生じやすい.特発性不眠症は子どものときから寝つきが悪く,しばしば幼児期から症状がみられる.現在の日本は高齢化,夜型化,ストレス社会,シフトワークの常態化などで,不眠障害のリスクはますます高くなっている.日本人の30%以上が不眠の症状を経験し,不眠障害はおよそ10%にみられる.高齢者では頻度が高く,男性よりも女性に多い.

治療方針

1.睡眠衛生指導

 睡眠日誌をつけて,自分の睡眠を客観視することは重要である.睡眠は個体差が大きいことを理解し,自分に合った睡眠パターンを見つけ,好ましい睡眠習慣を身につけることが治療目標となる.

2.就寝前のリラックス法

 就寝前に入浴したり,歯をみがいたり,何気なく行っている行為を就寝儀式という.このような就眠儀式を意図して順番に行うことが就寝の心理的準備となる.就寝前のリラックス法としては,全身の筋を順次(手→脚→腰→肩などの順に)弛緩させる漸進的筋弛緩法,就寝前に呼吸を整えて緊張を和らげる呼吸調整法,就寝前に不安を緩和させるイメージを思い浮かべるイメージ法などがある.

3.認知行動療法

 不眠へのこだわりが強い人は,無理に眠ろうとする態度を改める認知行動療法の適応となる.患者は今夜もまた眠れないのではないかという不安感・恐怖感をもち,夜になるとかえって目がさえて眠気がなくなる.必要以上に眠ろうとしてかえって不眠を悪化させていることが多い.眠くなってからベッドに入る,途中で目が覚めて寝つけなかったらベッドから離れる,朝起きる時間は一定にするなどを指導する.

 通常の認知行動療法では,睡眠制限法と刺激制御法を組み合わせた睡眠スケジュール法を行う.睡眠制限法は,睡眠日誌から自分の平均睡眠時間を割り出し,朝起きる時間を決めて,平均睡眠時間をさかのぼった時刻にベッドに入るようにする.刺激制御法は,寝ること以外でベッドを使わないようにすることで,15分以上たっても寝つけないときはベッドから離れる.あれこれ考え事が始まるようなら,寝室から離れて別の部屋に行くようにする.眠れないときにベッドから離れて,どのように過ごしたらよいかを患者とともに考え,夜間起きていることは医師の指示で行っていることを家族に理解してもらう.日中は眠くてもいつも通りの生活を心がける.

薬物療法

 睡眠薬を服用して実際に眠れたという体験は重要で,これにより過覚醒状態が改善し,不眠への過剰な不安がなくなることがある.睡眠薬を服用して安定した睡眠が得られたら,睡眠薬は漸減中止して生活指導を主体とした治療になる.

 

睡眠薬のやめ方

 ①夜間睡眠が確保され,②日中の不調がなくなり,③不眠に対する恐怖感が軽減され,④適切な睡眠習慣が身につく,といった4条件を満たしたら睡眠薬の中止を考える.うっかりして睡眠薬を飲み忘れてしまったなどというエピソードは,睡眠薬のやめどきを示唆している.長期間にわたって漫然と睡眠薬処方を続けてはならない.

 作用時間の短い睡眠薬は5-6か月かけて,長い睡眠薬は3-4か月をかけて漸減法と隔日法を試みる.具体的には2週間ごとに1/4ずつ投与量を漸減し,不眠が生じた場合には同じ睡眠薬の半量を頓用する.最小用量となったら週末の休薬日を試みる.2週間ごとに1日おき,2日おき,3日おきと服用間隔を延長する.そして定時処方を中止し,不眠時に最小用量を頓用するように指示する.

参考文献

1) 日本精神神経学会(日本語版用語監修),髙橋三郎,大野 裕(監訳):DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル.医学書院,2014

2) 松浦雅人(編):睡眠とその障害のクリニカルクエスチョン.診断と治療社,2014

3) 松浦雅人:内科医のための睡眠薬の使い方.診断と治療社,2015

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